山間にある住宅街の一角に約250㎡の屋根を作った。山を切り開いて造られた住宅街には、周りの長閑な風景とは対照的に、大きめの住宅と庭と駐車場が街路樹と共に規則的に並んでいる。
施主からは休日に時間を過ごすための場所が欲しいと依頼され、敷地全体に屋根付きの屋外を作ることになった。屋根の下には収納棚やシャワーブースを置き、一部を室内化できるようサッシを立て、敷地の外周には隣地の土をおさえる土留塀とプライバシーを守るフェンスを立てた。計画の途中で屋外キッチンとジャグジーを作ることになり、現在はサウナと倉庫を増築している。
建築を設計するようになって、計画と実生活の間に竣工という時間の切断があることを知った。竣工は計画を終えるために必要な節目ではあるが、竣工によって計画と実生活を切り離した途端に、計画は終わりを迎え、建物は実生活を送るための箱へと変わる。しかし、そもそも建築は使いながら用途を考えて良いほどおおらかな物であるはずだ。特に今回のように住宅以上の自由さが求められた場合には、実生活のために計画を終えることよりも、計画と実生活がいつまでも並走し続けられるような、建築的な強度が必要だと考えた。屋根で作った腰の低い気積はその応答であり、ここに載せた本工事完了時の写真は、今も継続している時間の一断面である。この状態を忘れるまで手が加えられていくことを想像しながら、現在も施主と計画を続けている。

ボート|所在地:兵庫県神戸市|延床面積:182.72 m2|構造:鉄骨造|用途:住宅|設計監理:山本周 小林栄範|構造設計:円酒構造設計|施工:住僖|写真:鈴木竜一朗|撮影:2022年2月



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